やれやれ。やっとSFマガジンにレポートを書きました。今回はレポートを書く人としてはもっとも頼りない人が一人で行っちゃったので、レポートもなんちゅうか隔靴掻痒の趣きですすんません。
ストラーニク(ロシア幻想文学作家会議)というのは、ペテルブルクのSF専門出版社(最近は一般文芸、料理などの写真印刷を重視した本なども手がけている)が主催しているSF系イベント。「遍歴者賞」の授与とプロ作家同士の交流、ファンとの交流が活動のメインで(あとは飲み会ね)、サイン会とか、科学の講演とか、いつだったかはアーサー・C・クラークと衛星回線を通じての意見交換とかをやったりしている。ワールドコンや日本のSF大会みたいに参加者自身が自分で企画を立ててバネルをやるとか、そういうイベントではないのが分かりにくいところ。
2005年には日本から過去最大の4人(大野典宏、宮風耕治、井上徹、高野史緒)が参加して、「日本との出会い」と題して、我々が会場からの質疑を交えてのインタビューを受ける企画なんかもあったのだけど(2005年のレポートはSFM2006年2月号に掲載)……あの時はねえ、何をやったらいいのか全く知らされてなくて、こっちでいろいろ考えていたんだけど、開始数分前にテラファン社長のユータノフに「じゃ、インタビュー形式で」とか言われて、全部チャラになったのであった。もっとも、ロシアは「結局何だかんだ言って何となく帳尻が合ってしまう」ところと言われているだけあって、なんかちゃんとできてしまったんだけどね。
たいてい9月から11月に開催されていたんだけど、今年からは書籍見本市に合わせて4月末開催ということに。
今年の公式プログラムは4月24日から26日、メイン会場と宿泊は前にも書いた通り、ワタシにとっては運命のオクチャーブリスカヤ・ホテル。いまだに「都市英雄レニングラード」とか書いてあるし(でもこれは大祖国戦争を体験した人もしなかった人も含めて、地元の人からしたら絶対外せないよね……)
初日はホテル5階のホールで行われた各種の講演と討論。今回の講演のメインテーマは「ナノテク」ということで、それ系のプロの研究者が演台に立つことに。しかし、これ、演目が9つもあって、30分足らずの休憩を挟んだだけで午後一杯講演をやるというむちゃくちゃなスケジュールだったのだ。ナノテク講演はそのうち5つを占める……。でもこれ系の講義はどうもファンタスチカ作家たちの席を暖めなかったようなのよね。あとは、何故かテラファンの人たちが大好きな碁の講義(モスクワにある碁の学校からなかなか男前な先生が来ていたのであった)、スマート・ドラッグについては講演後の質疑で議論白熱。現地参加のGさんの通訳によれば、「病気を治すのが『薬』ならば、病気を防いだりよりいっそうの健康を追求する薬物が『スマート・ドラッグ』とのこと」だそうで。
さすがに途中でザセツしてGとさんと脱走して茶をしばきに行く。なんかもう「セルフサービスじゃないスタバ」みたいなカフェが出来ててびっくりでした……
2日目はワシリエフスキー島西端のレンエクスポ(レニングラード見本市)でサイン会と、「遍歴者賞」の一般参加者投票、「剣」の授与式。このブックフェアのことは以前も書いた通り。
最後に入り口脇のステージで、ストラーニク参加者でない人たちにも公開された形で「剣」の授与式。この「剣」というのは、そもそもはクラスノヤルスクのSF大会で2年に1度行われていたジャンル賞で、それがストラーニクに統合されて現在に至っているものだそうです。何故か正統派シェイクスピア劇のような衣装に身を包んだお姉さんたちの司会進行。今回の受賞は以下の通り。
ジャンル賞「剣」受賞作
「ルマタの剣」賞(ヒロイック・ロマンチック冒険ファンタスチカ)
ヴェーラ・カムシャ『冬の破壊』(長編)
「月の剣」賞(神秘、ホラー)
マリーナ&セルゲイ・ジャーチェンコ『Vita nostra(われらの生活)』(長編)
「石の中の剣」賞(ファンタジー)
ミハイル・ウスペンスキー『金の袋を持った無垢な少女』(長編)
「鏡の中の剣」賞(歴史改編ファンタスチカ・パラレルワールドファンタスチカ)
アレクサンドル・グローモフ『アイスランドの地図』『ロシアの投げ縄』(長編)
(訳:井上徹)
作品についてなーーーーんにも語れないのが申し訳ない。
3日目はオクチャーブリスカヤの小会議室での会議、討論が中心。午前中は作家やイラストレーター等クリエイターと出版社、映像製作会社等との間でのミーティング、午後にはファンタスチカ系ネットコミュニティの円卓会議。どっちも興味はあったけど、さすがに全部ロシア語ではねえ…… あとはこの日が友人宅を訪問する唯一のチャンスだったたので、ばっくれてそっちに行ってしまいました。でもこの友人宅では、伝統的なやり方で作った復活祭の卵をもらったり、「いかにもガイコクから来た特別な人をもてなすため」という感じではなく、近所から「ゴハン食べに来てよ」って言われて行った、という感じのお昼ごはんを出してもらったりして感激しましたね。そういう意味ではストラーニクをバックレても全然後悔してないっす。レポート的には役立たずですんませんけど。
ロシア時間でテキトウにオクチャーブリスカヤに戻ると、もう「遍歴者賞」授賞式に行くバスが出るところだという。まあ予定よりはけっこう遅れているので、そっちだってロシア時間じゃんとは思ったけど、前日までの経験で、19時に出発と言ったら本当に19時出発だろうと思ったので、慌てて部屋に戻って着替える。そしたらやっぱり19時ちょうどに出発しました。ひょえ~。本当にここはロシアか……?
授賞式とパーティの会場は、オクチャーブリスカヤからそう遠くない高級ホテル、グランド・ホテル・エメラルド。ここはね~、ソ連時代を知っている者にとっては想像を絶する場所ですよ。2003年に開業したばかりの新しいホテルで、パリの高級ホテルの設備を全て新品にしたような、もろに「西側」という感じのホテルなのでありますよ。授賞式の場所はコンサート用ホール。準備ができるまでさらに待たされたけど、ここでも出るお酒はシャンパンのみ。みんな「適度に」飲んでます。静かです。これは友達に撮ってもらった「その場にいた証拠写真」。
トロフィーも以前はずっしりとした「遍歴者」像だったけど、今回からは遍歴者像のホログラフを額装したものになってしまった。授賞式というのはこの本体が見える状態で渡すのが普通だけど、舞台上で紙袋をホイと渡していたのには笑ってしまいました(笑)。。もっとも、ツッコミどころはこの程度で、授賞式は(ロシアのイベントでありがちな、途中で何故か音楽の生演奏が始まってしまうところも含めて)つつがなく進行し、一時間ほどで終了。今年の受賞者は以下の通り。
「ストラーニク遍歴者賞」受賞作
「宇宙ファンタスチカ」賞
アレクサンドル・ゾーリチ『明日は戦争』(長編)
「技術ファンタスチカ」賞
ワシーリー・ズヴャーギンツェフ『オデュッセウス、イタカを去る』(長編)
「科学ファンタジー」賞
イーゴリ・プローニン『鏡像たち』(長編)
「ユーモアSF」賞
エヴゲーニー・ルキーン「穴だらけの実存」(中編)
(訳:井上徹)
この後、吹き抜けになったパーティ会場に移動して打ち上げ。この会場というのがですねー、建物の中庭にガラスの天井をつけて「屋内」にしちゃったような場所で(まあ、大英博物館の図書館旧館を移築したあの中庭を小規模にしたみたいなもんです)、周りには客室の窓が並んでいるのであります。外のような、中のような雰囲気るこれ考えた人はすごいなあ、と思うことです。友人の通訳を頼りにして多少交流はしましたが、もともとぱーちーってニガテなもんで……その上、ちょっと体調的に限界でした。受賞式での写真も、なんだか覇気のない顔してますねぇ。飲んだくれている人がいなかった話は前回書いた通り。いやー、ロシアの人の適応力ってすごいなあ……
来年もブックフェアに合わせて4月末にやるそうです。やっぱりレポート的にはロシア語ができる人がいかないとダメっすね。でも、たとえこの程度でも交流を保っておくことって大事だなあ、とつくづく思ったことです。ロシアでは有名なイベントでも、報告する人がいなかったら、日本では無名イベント扱いになってしまうわけだし……。もっとも、ロシアの作品自体が日本でもっとちゃんと紹介されない限り、ごく一部の人間がこういうところに出入りしていても、「真の交流」が確立されたとは言えないんですけどね。というわけで、どなたかロシア語やってらっしゃる方で、実はロシアのファンタスチカを訳してみたい、と思っている方がおられましたらご一報を。「もう大野あたりの独占下で、新規参入の余地なんかないのでは」と誤解してらっしゃる方がけっこういるんですけど、そんなの全然事実じゃなくて、むしろ人手足りてないんで、まずは短編のリーディングとレジュメだけでも名乗りを上げてくだされは幸いです。
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