鮎川哲也と芸術と昭和
最近、Kindle化された鮎川哲也作品を読んでいる。
鮎川作品は飲み屋のねえちゃんとデキちゃって妻を殺したりする作品が多いので、その昔、潔癖な乙女だった私はほとんど読まなかった。最近ちょっとしたことで読み始めたのだが、語り口に騙されて意外に単純なトリックが見抜けなかったり、昔は思いもしなかったところに魅力があることを改めて発見したりしている。
乙女だったころは淫靡に思えた作品も、今読むと、エロいシーンをダイレクトに描かない、犯人側にも被害者側にも人としての心配りがある等、むしろ高潔に感じる。芸術、芸能に造詣が深くて、単に「教養がある」というレベルではなく、本当に芸術を愛していて心底それが身についているのも魅力。音楽関係、特にクラシックの知識や解釈、演奏を表現する時の雰囲気も奥深くて、愛好家のメンタリティなんかは、クラヲタとしては恥ずかしくなるくらいに描きられてしまっている。そうそう、クラヲタってこうなんだよね~(赤面)。
そして、かつては想像だにしなかったことが! 「昭和後期っぽさ」がものすごく魅力的なのだ! もちろん単に、作中に登場する昭和な事物が魅力的というだけではない。やっぱりあの作品、あの作風の中に描きこまれた昭和だからこその魅力みたいなものがすんごくあるのだ。電話が呼び出しの黒電話という事実だけではなくて、それを使って和菓子屋さん経由で証人を呼び出したりする捜査の過程なんかに、何とも言えない味わいがあるのよねえ。
鮎川作品をこんなふうに味わえるようになるとは、歳を取ったり時代が変わったりするのも悪くないもんだな~と思った次第。
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