ご報告が遅くなりましたが、6日、ロシア大使館にて亀山郁夫さんと沼野充義さんと高野史緒の公開鼎談をやってまいりました。
いったん講談社で雅印入りのサイン本を作って、講談社の方々とタクシーでロシア大使館に。着いてビックリの日本側の警備に話が通ってない罠。三ケタの人数で集合したら公安にマークされてしまう!と一瞬焦りましたが、文化担当官のヴィノグラードフさんにちゃんとフォローしていただきました(ていうかこの方が事前に日本側に通知しとかないとダメなんですけどね)。さすがに亀山さんや沼野さんはこのくらいのロシアっぽさでは動じず(笑)。
厳重に警備された塀の内側はクリスマスの電飾…… いやいっそ塀の外もデコって下さい(笑)。
この写真は12日に撮り直したもの。う~ん いただきものの写真よりマシかと言われると……むしろダメっぽいですが、責任を取って自分で撮った写真を載せておきます。上品な電飾。「電飾と東京タワーを一緒に撮る」の企画は技術的に限界で失敗orz
直前になって場所が講堂から大広間に変更に。ここは使用に大使の許可が必要だったり、いろいろ大変な場所なので、まさかこんなアップグレードをしてくれるとは思わなかったので嬉しい驚きでした。ここに変更になったと聞いた時は、講談社の中では「椅子並べるのとか誰がやるんだ?!」と一瞬騒然となったようですが(そりゃなるでしょう)、用意は何もかも大使館側でして下さいました。
会場はこんな感じ(撮影は井上徹)。中央にクリスマスツリー。この場合ヨールカと呼ぶべきかもしれないけど、エントランスのステンドグラスの前に飾ってあった小さなツリーは、国際標準化してるのか英語で「Merry Xmas」って書いてあったなあ。
何故かSF関係者から脱落者が相次いだものの(何故だ?! みんな何のデンパを浴びたんだ?!)、会場はちゃんと埋まって一安心でした。
最初にロシア文化交流庁のヴィノグラードフさんから流暢な日本語でご挨拶。下の写真は左から沼野さん、高野、亀山さん(どちらも撮影は井上)。
沼野さんから事前に警告されていた通り、亀山さんは最初はやけにシャイな感じでなかなか話が進まないのであった。なのに時間は実質一時間ちょっとしかない。亀山さんのアドレナリンが分泌される前に時間切れが予想されるが、毎週のように公開シンホジウムや研究会を仕切る沼野さんの手慣れたかじ取りで何とか話は進む。
ワタシ的に一番意外だったのは、現場(この場合、「げんじょう」と読みたいw)とスメルジャコフの供述が一致しないこととか、遺体発見の場面での「その時は扉が開いていて」という記述とかは、研究者や翻訳者は案外気がつかないということ。そ……そうなんですか…… マジですか? トルストイは綿密に記述を練るけど、後期のドストエフスキーは「熱に浮かされたように」口述筆記するので、ドストエフスキー研究者は「細かいところは気にしない」のだそうです。『罪と罰』の現場の描写が細かいのは、あのころはまだ口述筆記じゃなくて自分で手で書いていたから、とか。杉下右京のように「細かい所が気になる」私が異端なのか……。いや、でも私、研究者じゃないから(笑)。亀山さんの訳に単語一個一個までツッコミを入れてた人は、「その時は扉が開いていて」の部分とか何か言わないんだろうか。気づかないものなんだろうか。妬ましい他人の揚げ足取りにばかり気を取られていて、ドストエフスキーの文章なんか見てないのかもしれませんね。
でも、本格推理を書く人たちの中にはダイヤグラムなんか作らなくても登場人物の時間と空間を分単位、秒単位で管理できる人もいる。フォトグラフィック・メモリーや絶対音感のような、ある種の時間・空間管理能力を持ってる人って、いるんじゃないだろうか。ミルトンはあのながーい『失楽園』を「サファイアの玉座にのぼる神」という言葉が真ん中に来るよう書いたと聞きますが……。どういう概念を持った文化圏にもフォトグラフィック・メモリーや電卓並みの暗算能力を持った人がいるように、本格推理という概念があろうがなろうが、メモなしで登場人物のダイヤグラムが管理できる人もいるんじゃないかと思う。私はドストエフスキーがそういう人だったとしても不思議ではないと思っている。『カラ兄』でも、修道院と市街の中心部と郊外のカラマーゾフ家との間が、成人男性の足で25分前後の位置関係と仮定すると、日没や教会の鐘の時間から算出されるタイムテーブルは完璧なのだ。なんでみんな気づかないのかと思う。メモなしでこれができる能力を持った作家がいても、その存在自体は不思議ではないと私は思う。この件については、出版する予定がないでもないので、具体的に日程が固まったらまた告知いたします。ちなみに私はみっちりメモとか図面とか作って書いてます しくしく。
沼野さんのコスミズムのお話も、本当は現代ロシアSF方面にも言及しつつもっと話していただいたらなお面白かっただろうと思いますが、あえなく時間切れ。後半は大使館側が用意してくれたお茶会に(撮影はSF大会サイバーパンク部屋でおなじみのとりにてぃさん)。お茶会とはいえ、ピロシキやカナッペなどの軽食系もくさんあり、量も大盤振る舞いで、アルコールがないだけで実質一食分な感じ。かなりおいしかったらしい……とウワサに聞くばかりで、私は例によって『巨匠とマルガリータ』状態でコーヒー一杯しか飲めず いや、でも、来ていただいた皆様には喜んでいただけたようで何よりです。レアなハードカバーの『カント・アンジェリコ』や『ヴアスラフ』を持ってきてくださった読者さんも一人や二人ではありませんでした。ありがとうございます。何のデザイン性もないサインですみません
プロが撮った写真は、次の「小説現代」に、鼎談については日版の「新刊展望」(12月15日の号)に掲載されます。大きめの本屋さんで「新刊展望」ホシイと言ってくだされば手に入るかと思いますし、web掲載もあるそうです。
とにかくロシア大使館側にはいろんなところを目いっぱいアップグレードしていただいて、手間もコストもみんな負担していただいて、ありがたいばかりです。民間人の外交答礼として、この日いらっしゃった皆様には(ロシア大使館をほめちぎりつつw)ネットに書き込みとか写真とかupしていただけるとありがたいです。
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