ソクーロフの『ファウスト』
本当は出かけてもいい状況じゃないのですが(今週中に引き渡すはずのゲラがまだ手元にw)、諸般の事情により、アレクサンドル・ソクーロフの新作『ファウスト』を井上にくっついて見てきました。井上のところにさえ試写状もこないうちに公開になってるしとか思ったけど、配給がいつものパンドラじゃなくて、知らない配給会社だったのであった。ソクーロフの権利金も高騰しているようなので(特に『ファウスト』は金獅子賞を受賞してるし)、背後にはいろいろ争奪戦があったのでしょう。映画の配給も大変だなあ。
ソクーロフがゲーテの『ファウスト』を好きなように換骨奪胎して作った映画。「ゲーテの作品と似ているところがあるとすれば偶然だ」とまで言い切るw 実際、本当にソクーロフ的にやりいようにやっている。ソクーロフ作品の中でも屈指の不毛さ。映像美はいつもながらであるだけに、その不毛さは際立つ。人間も死体も人造生命体も等しく醜く、美しいものもあまりにも長い間見つめていると醜いような気がしてくる不毛さ。
マルガレーテの美しさも純真無垢ささえも不毛。彼女は共感も反感も生み出さない、あくまでも「美しい姿形」で、哀しいほど中身は無い。良い意味だけではなく、悪い意味でも純真無垢。相変わらずソクーロフの描く女性像はキッツイなあ(笑)。それでふと思ったのだが、『ボヴァリー夫人』で、女優としての未来なんかカケラもない素人女性を「イメージに合うから」ということで道端でスカウトしてきて、ああいうプロでもためらうようなあられもない露出をさせた挙句何のフォローもなく放り出したソクーロフなのだから、ファウストに興味を持つのは当然かもしれない。今回のマルガレーテ役も、もしオーディションでイメージに合う素人の美少女を見つけたら、女優としての将来があるような素材でなかったとしても起用して陰毛まで丸出しにさせて放り出しちゃったんだろうなあ(ちなみに、幸いなことに、実際のマルガレーテ役のイゾルダ・ディシャウクは、若いながらもキャリアも将来性もある本物の女優さん)。
大きな望みがかなったとしても、それは単に課題の一つがクリアされただけのことで、それで全ての悩みや問題が購えるわけではない。『ファウスト』で金獅子賞を取ったからといって、それで舞い上がっていられるものでもないことを、ソクーロフ自身が最初から分かっていたのでしょうね。
映画の後は写真家のみやこうせいさんの「『ファウスト』公開記念 『ソクーロフ 非日常の日常』写真展」を見に行く。ご本人は相変わらずとぼけたような飄々としたキャラだが、作品は緊張感があって大変美しい。ソクーロフの優しさと傲慢さの両方が切り取られているように思える。映画のパンフに載っている「フツウの」ソクーロフの写真とは印象が違うので、ソクーロフのファンは一見の価値あり。会場は『ファウスト』の上映劇場シネスイッチ銀座から歩いて行ける。写真展の会期は6月10日まで。
というわけで推敲なしの殴り書きですが、どこかにちゃんとした記事を書くチャンスがあったらちゃんと書きまますんませんすんません仕事に戻ります。とりあえず情報提供まで。
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コメント
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プチ業務連絡。井上はこの後、エイゼンシュテインシネクラブ顧問・新藤兼人さんのお通夜に回りました。明日は告別式に参ります。
投稿: ふみお | 2012年6月 2日 (土) 23時08分