チェルノブイリ原発事故26周年イベント:ベラルーシ大使講演
4月26日と言えば、26年前にチェルノブイリで原発事故が起きた日。その26周年に当たる昨日、日本ユーラシア協会でセルゲイ・ラフマノフ駐日ベラルーシ大使の講演があって、行ってきました。
ラフマノフ大使はもともと職業外交官でもなければ官僚でもない。ソ連時代である70年代にベラルーシ国立大学で化学の学位を取得して以来、ずっと同大学で研究と教育に携わり、21世紀にはベラルーシ共和国国立科学アカデミーの化学部門で重職を歴任してきたという生粋のサイエンティスト。昨年末に登用されて駐日ベラルーシ大使として日本に着任。まさに福島の後始末への協力とベラルーシ製線量計の売り込みのための人選なのでしょう。
前半は日本のNPO法人作成のDVD「放射線内部被曝から子どもを守るために」の上映。後半が大使の講演でした。
外交官の話には欠かせない(そして常にもっともどうでもいい)お国自慢的な項目はおざなりかつ最小限でさっさと済ませ、科学用語と通訳泣かせな数値満載の本題に。やっぱりさすがにホンモノの科学者なだけあって、いかにも官僚がお勉強してきました的なまだるっこしさは無い。
チェルノブイリは地理的にはウクライナだが、地形や風向きの関係で、あの事故もっとも強く被曝したのはベラルーシ……というのは、去年の3月までほとんどの日本人が忘れ去っていたけど、今では知らぬ者のない事実。そもそも「個人用線量計」などというものの存在しない頃(しかもソ連時代)、他国から輸入すれば済むというわけにもいかず、ゼロから開発せざるを得なかったことや、それを可能にしたのは、400回にわたる核実験を行っていたソ連の技術的蓄積があったからこそという、素直に喜べない複雑な背景のこと、現在も強制と言っていいほど国民の医療管理を綿密に行っていること等、この四半世紀の間、ベラルーシという国があの事故の後始末のために国力のほぼ全てを傾けなければならなかったことが分かるお話。用途別の各種の線量計は今でも正確さでは世界一というが、とにかく必要に迫られて他の産業を犠牲にしてでも開発してきたのだから大変である。
一番ビックリしたのは「耕作地や森林の除染は必要ない」という話。「とにかく正確な線量マップを作って、安全な耕作地の確保と労働条件の厳密化のほうが重要」と大使は言いますが……ああ、それはねえ、日本ではムリです。土地が100%国有だったソ連ならできたでしょうけど、日本の耕作地はほぼ100%私有地なんですよ……。そりゃ被曝した土地を捨てて安全な耕作地に移転して農業を続ける、除染の費用は医療や廃炉作業に振り向ける、みたいなのは机上の空論的には理想でしょう。でもそれが可能だったら日本でもとっくにやってますがな…… そういう意味では、もうちょっと日本の事情も勉強していただきたいところです。とはいえ、日本で可能かどうかは別として、現実に体験してきた国の実例を聞くのは、日本にとっても糧となるでしょう。
ベラルーシは今、世界で最も厳しい安全基準を持っていて、食料は100%の検査を義務化、それによって今農業輸出国としての歳入を得ているという。食品を厳しく管理することで安全な食料輸出国としての位置を確保し、その収入で安全確保や医療の費用をまかなう、みたいなシステムになっているらしい。旧ソ連の国家主導システムがあったからこそできたという、ちょっと皮肉な側面はあるでしょうけれど。
治療の研究も四半世紀間続けてはいるものの、やはり今の科学力では、とにかく早期発見早期治療に勝る方法はないようで。現在、秋田大学にベラルーシの研究者が来て共同研究が始まったところだそうです。
大使が当日身に着けていたベラルーシ製の線量計内臓腕時計がカッコイイ。必要に迫られてはいないけど、正直、あれ、ホシイな……
講演終了後に、世界初のベラルーシ語→日本語直接翻訳の小説を収録した『時間はだれも待ってくれない』をお渡ししてご挨拶。編纂時にお世話になった大使館職員のエレーナ・グリツェンコさん(金髪美女よ)にもご挨拶できてよかったです。
腕時計型線量計はAmazon.jpで買えますね。な、何でも売ってるなアマゾン……。最近はバッタもん(まず間違いなく例の某国製)も出回ってるそうなので注意。
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