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2011年2月 2日 (水)

亀山郁夫&リュドミラ・サラスキナ対談「ドストエフスキー『悪霊』と現代」

しまった。書きかけのエントリを放置してしまいました。もう半月前の件ですが。三分の一ほど書いた小説をゼロからやり直していたので、自分的にはかなりシュラバっていたのです。すいません。

1月23日、東京外語大学サテライトの一室で、亀山郁夫さんとドストエフスキー研究者のリュドミラ・サラスキナさんの対談がありました。テーマはドストエフスキーの『悪霊』。前日に東京大学本郷キャンパスで行われた現代ロシア芸術についてのシンポジウムでこっそり告知され、当日は十数人だけ集めて行われた、戦闘革命団の地下活動みたいなイベントでした(<要するに急遽セッティングしたので、広い会場も取れないし告知も行き渡らないわけですね。学術系ののイベントではわりとありがち。それでも歴史学よりマシかも)。

サラスキナさんはドストエフスキーの研究者で、ことに『悪霊』については世界一ではないかというエキスパートだそうで、現在、光文社から『悪霊』の新訳を刊行中の亀山さんとしては、是非、サラスキナさんとサシで『悪霊』について語り合いたかったのだそうです。亀山さんとしては彼女と対談して、それを本にしたいという意向もあるそうで、ここで全部バラしちゃったらまずいので、私が個人的に注目したポイントを中心に書きます。

事前に亀山さんがあちこちから集めてきた『悪霊』に関する質問をサラスキナさんにして答えてもらいつつ、亀山さんと意見交換する、という形式で進めたかったようですが、サラスキナさんは休みなしで四時間『悪霊』について講演してもまだ時間が足りなかったことがあるという人なので、一問一答はムリでした 手元に何の資料もなくても、ドストエフスキーの生涯やどの作品のどのテーマについてもいくらでも語れるサラスキナさん。あとで個人的に感想をうかがったところ、亀山さん的には、意外に意見の相違点が多くてちょっとショックだったようです。でも、それが分かっただけでもけっこうな収穫ですよね。

私が一番気になったポイントはココ。亀山さんが「(『罪と罰』の)ラスコーリニコフは戻ってこられる罪人けど、(『悪霊』の)スタヴローギンは戻ってこられない罪人だった。この違いの一線はどこにあると思いますか?」という質問をしたところ、サスキナさんは「どちらも同じ、『戻ってこられない罪人』である」と認識していたところ。サラスキナさん的には、殺人という罪を犯したという事実が、「もう戻ってこられない」ポイントになっているようす。確かに、倫理観としてはそれが「正しい」のかもしれない。でも私としては、亀山さんの「ラスコーリニコフは戻ってこられたけど、スタヴローギンは『向こう側に行っちゃった人』」という見解には大いに賛成するところです。

ラスコーリニコフとスタヴローギン、そして『カラマーゾフの兄弟』の次男イワン・カラマーゾフは、三人ともニーチェの超人思想に通じる考え方を持っていますが、それぞれの作品で殺人事件が起こった後、ラスコーリニコフとイワンは、神が存在するかどうかとさえ関わりなく罪悪感というものがあることを実感して苦悩するけど、スタヴローギンはそこで動じないわけですよ。私はドストエフスキーは「100年早かった犯罪プロファイラー」だと思っているのですが、彼はすでに『悪霊』執筆の時点で「サイコパス」というものの存在に気づいていたんじゃないかと思うわけです。もちろん、「サイコパス」という用語は存在せず、彼らをどうカテゴライズするかもドストエフスキー自身分かってはいなかったけど、何かしら理解を超越したカテゴリの人間が存在することに気づいていて、『悪霊』と『カラマーゾフの兄弟』はそれについて考察するために書いた小説なんじゃないかと考えてます。『白痴』のロゴージンは『カラ兄』のドミートリーに、『罪と罰』のラスコーリニコフは『カラ兄』のイワンに、『悪霊』のスタヴローギンは『カラ兄』のスメジャヤコフに発展していったのではないかと。じゃ『カラ兄』のアリョーシャの原型は『白痴』のムイシュキン公爵かって? いや、アリョーシャは前代未聞のニュータイプです。ドストエフスキーの他の作品にプロトタイプは存在しない。実はその件について今書いているところなのですが、三分の一ほど書いたところでゼロからやり直しに……って早く完成させろよ>ぢぶん

上記のプロタイプ論につい亀山さんにはいろいろとお聞きしたいところですが、全然実現しないので、まだ聞けてません。まあお忙しいこととは思いますが、ぜひお願いします>亀山さん。

サラスキナさんとの対談については、本にまとめるとしてもいつ頃になるのかは不明ですが、なかなか楽しみです。まあお忙しいこととは思いますが、ぜひお願いします>亀山さん。

*質問があったので2月3日付記。私はまだ光文社版『悪霊』は未読です。全部揃ってから読もうと思っているので。第一巻はこちら

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コメント

世界市というのは、世界一ではないかと愚考します。

さようで ご指摘ありがとうございます。長編をワープロ入力で十冊以上出版し、短編もそれなりに書き、卒論も修論もワープロ入力で、数限りないメールとウェブ日記を書いてきましたが、いまだにこういう変換ミスがなくなりませんorz こっそり(?)直しておきますです。

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