2010年8月7~8日、第49回日本SF大会TOKON10に行ってきました。今年はすでに体力が失われてて、「選べるのなら出かけない」レベルになっていたので、開会式とか閉会式とかまでは出ませんでしたけど。
今年はわりと、見たいもの重なり率が高い。なので、自分が出る企画以外は夫と手分けして見に行くことに。
一日目の三時前に会場入り。私は「日本SFいろいろ史」へ。井上は「非英語圏SFを語る」へ。
・日本SFいろいろ史(北原尚久、長山靖生、日下三蔵、牧眞司)
基本的に「日本SFにおける『古典』の定義・位置づけ」が中心に。「現代の我々にとっては読みにくいし面白くないけど存在意義はある」という古典もけっこうあるわけですが、二日目の韓国SF企画で語られた韓国における古典SFの不在のことと考え合わせると、明治とか大正とかの時代に「空想科学小説」の基礎を築いてくれた先達のいる世界ってものすごくありがたい。途中、誰と誰が古本屋で知り合って友達になったとか、誰がトン単位で本を買っているとかディープなエピソードも。全体にピンポイント的でマニアックで入門者向けではない話だが、こういう企画ができることがまさにSF大会の意義でしょう。
・非英語圏SFを語る(林久之(中国語)、中嶋康年(スペイン語)、井上知(スペイン語)、宮風耕治(ロシア語)、大野典宏(ロシア語))
スペイン語の人たちは「何年に○○という作家が××という作品を書き、△△という作家が□□という賞を取り……」と、固有名詞の羅列に終わる。それでスペイン語圏SFに興味を持つのは正直、ムリでは……。でも、最新事情はキャッチしている模様。中国語の人はさすがに長年中国語SF翻訳の同人誌をやってきているだけに、いろいろ最新事情を把握している。興味を持った人はディーラーズルームでその同人誌を買うことができるので、体制としてはもっとも整っている。ロシア語は、最近の作家は一人紹介したのみで、あとは今までSFマガジンで紹介してきた既存の知識の繰り返しに終わって残念。非英語圏SFは出版してくれる出版社がないから……などと言っていたようだけど、私の知る限り、現状はその逆。複数の出版社が企画を待っているのに翻訳者の側が動いていないのが実情。「紹介する」とかはもういいんで、翻訳してください。
・「チェコのレトロSF映画を見よう!」(井上徹、高野史緒)
17時から自分の企画。年内に東京創元社から「新東欧SF傑作集(仮)」、「新ロシアSF傑作集(仮)」を私の編纂で出すので、その連動企画。『ジェシーを狙うのは誰だ?』(チェコスロヴァキア、1966年)を上映。席数は50くらいだったと思いますが、立ち見も出る盛況に。ウケつつ、ツッコミつつ、昔の映画館みたいな雰囲気でお楽しみくださいとアナウンスしましたけど、その通り、会場からは笑いありツッコミありで大盛況でした。特撮らしい特撮を使わなくても、ここまで「SF」を表現できるということは、現代の我々も学ぶべきことかも。上映後、「冷戦時代のチェコの印象が変わった」「牢獄でのワイロの受け渡しまで描いていて、共産主義時代のチェコの文化の自由な雰囲気を知ってビックリ」等のコメントをいただきました。何しろSWエピ4の倍くらいの速度で話進みますからねw こういうやり方のパブリック・ディプロマシー的な意義をお役所はもっと理解しろよと思うことです。ま、日本も含めてどこの国にも言えることですけどね。
・SF作家クラブ懇親会
さすがに体力も尽きかけ。夫にすがりついてなんとか出席。来ているであろう人が意外と来てなくてちょっとビックリ。料理があっと今になくなったのもビックリ。パーティとかニガテなので一秒でも早く帰りたいと思ってしまうワタシですが、普段なかなか直接お会いすることのできない方、遠くに住んでいる友人、読者さんに会えたので、珍しく楽しく過ごせました。そしてこの日、8月7日は実は新井素子さんの誕生日。サプライズで大きなケーキが出てきて、五本だけ立てられたロウソクを新井さんご本人が吹き消して大喝采。ケーキの王道たるイチゴケーキで、美味しかったです。カラータイマーが点滅してきたので、江戸川花火が終わって都営新宿線が阿鼻叫喚の地獄になる前に帰宅。
二日目は朝イチで自分の出る企画だったので、ちょっと早起き。
・サイバーパンクの部屋(巽孝之、菊池誠、高野史緒、飛浩隆、日暮雅通、YOUCHAN、小谷真理(ヴァーチャル出演)、とりにてぃ)
お馴染み、サイバーパンクの部屋。もうね、サイバーでもパンクでもない健全過ぎる時間帯にサイバーパンクw 何がどう話し合われたかとかいちいちレポしてもしょうがない、いつも通りのユルい企画ですw そのユルさの中に潜む重要な情報もあったりするとこがミソ。今年はパネリスト全員がミラーシェードのサングラス。ただし、「ちょっとモニタ見るのにフツウのメガネかけていい?」とかはあるんですがw ああ早くミラーシェードをかけてても何でも見えるサイバーでパンクな存在になりたいwww 私は来年の日本詠文学会第83回大会のシンポジウムでパネリストをやることになってるんですが……いちおうミラーシェードのサングラスは持って行こうかとw 巽さんもいらっしゃることですし。いや、ただ持ってゆくだけですってば……
・ヤナ・アシマリナさんに聞く(ヤナ・アシマリナ、大野典宏、宮風耕治)
前半はアシマリナさんのこれまでの軌跡について(って、去年とのダブリ)、後半は大野さんの「自分がいかに彼女と仲がいいか」についての自分語り。最後に今現在のアシマリナさんの活動について。ロシアSFを専門にしているという人が二人もいながら、何故通訳をやらないのか。全体の参加者が去年より多く、時間帯も有利だったのに、何故去年より客が少ないのか。せっかくの東京大会なのにもったいない企画。
・SF創作講座(塩澤快浩、森下仁一、三村美衣、横山信義)
人のフリ見て我がフリ直せ! というわけで、プロですみませんけどこの企画に潜入。9時半から二コマ連続で行われていたものの後半だけでしたが。書くほうも真剣だが読むほうも真剣。読むほうは、「まあシロートだからあんまり厳しくしてもしょうがないよね」という甘さはなく、きっちり厳しく指導。それでも書き続けた者、書き終えて作品を完結した者の中からしか作家は出てこない。もっとも、そこまでして作家になったからといって、作家が偉いかどうかは別問題なので、自己責任でお願いします……
ここでいったん、林譲治さんと井上と合流して、駅前のデニーズで昼食。
・ペリー・ローダン夏期講座2010(若林雄一)
全然ペリーでもローダンでもないワタシですが、今あのシリーズがどうなっているのか知りたかったのと、若林さんに会いたかったので参加(若林さんには実は、「新東欧SF傑作集(仮)」の件でいろいろお世話になっているのです)。参加者は25名ほど。私以外、全員が男性。若林さんは2500話から2550話までのストーリーや設定をきっちりとまとめたレジュメを用意し、自費で購入した2500話と2550話の冊子を全員にタダで配布! 一時間で終わらせるという予定をきっちり一時間で終わらせる。やっぱり独文関係者はいろんな意味すごいわ……。ペリー・ローダンの冊子、数年前にチューリヒの本屋に並んでるのを見たことはあったけど、その実物を手に取って中身を見るのは初めて。やっぱりペリー・ローダンは人類のジャンクSF欲を満たすパラダイスですね。魅力的……だけどもうついてゆけないわ……読んでたの、中学生の頃のことだし……
・韓国SF入門(全弘植、朴零)
韓国SF界はなかなか厳しい状況にあるらしい。日本の海野十三のような「古典SF」の世代がいないことが後々まで尾を引いたことと、現在も何らかのムーヴメントが起こっても長続きしないことがネックらしい。国によってSFに向く国と向かない国があるという印象があるけど、韓国は「向かない国」なのかなあ。その中でSFを担っている人々の努力に頭が下がる。こうやって、日本に来て日本語で韓国SFを語り、正確な日本語で書かれた冊子を配る人がいるということもすごい。我々日本人も見習わないといけないことです。
・ディーラーズ・ルーム
再来年のSF大会は夕張ですってよ奥様! それはいいんだけど、何故「夕張メロン熊」の一つも連れてこない?! というか、私だったら夕張観光協会に、夕張メロン熊を第51回SF大会の公式キャラにできないかどうか交渉する。お互い得るものは多いはず。
……と、ここまできて体力が尽き、夫に自宅まで持ち帰ってもらう。エンディングまでもたなかったな~。会えなかった人も多く、心残りはあったけど、カラータイマーには勝てない。帰ってから寝る。
運営もスムースだったようだし、今回の大会は大成功と言っていいんじゃないでしょうか。会場費がハンパないので東京で開催するのは今後も難しいようだけど、また首都圏でもやってほしいことです。国の鳴り物入りのイベントや、企業のお金かかったイベントでもこれ以下のものはいくらでもあるというのに、この規模の大会をポランティアが手弁当でやっているということ自体も誇っていいと思っております。
来年の第50回大会は静岡。まだ何も考えてない……けど、もしかして「新東欧SF傑作集(仮)」、「新ロシアSF傑作集(仮)」関連の企画をやらないといけないかしら……
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