映画『オーケストラ!』試写
多少回復してきたので映画評を。風邪で寝込む前に、『オーケストラ!』(ラデュ・ミヘイレアニュ監督作品、2009年フランス)の試写を見てきました。
劇場清掃員として働く冴えない中年男アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)は、かつてはロシア・ボリショイ交響楽団で主席を務めた天才指揮者だった。彼は、共産主義時代、“ユダヤ主義者と人民の敵”と称されたユダヤ系の演奏家たち全員の排斥を拒絶、名声の絶頂期に解雇されたのだった。ある日、清掃中にアンドレイは、1枚のFAXを目にする。それは、演奏を取りやめたサンフランシスコ交響楽団の代わりに、パリのプレイエルに出演するオーケストラを2週間以内に見つけたいという内容だった。その瞬間、彼は、かつての仲間を集めて偽のオーケストラを結成、ボリショイ交響楽団代表としてパリに乗り込むことを思いつく……(Movie Walkerサイトより)
まあ早い話、プロオケ版『クール・ラニング』ですよ(笑)。最後には演奏はうまく行きました、めでたしめでたしで終わるのは分かりきった話で、当然監督も、そこに向ってはネタを振りこそすれ、伏線を引いたりわざわざミスリードのような真似はやらない。が、フィリポフの過去についての伏線が見事。たいていの観客が「過去」について最初想像したのとは別な方向に話がつながる。基本的にはコメディなのだが、その背後にある歴史や人間関係はとてつもなく重い。
ダサくて大雑把で悪気なく身勝手なロシアと、オシャレで「芸術」とか「権威」とかに弱くて見栄っ張りなフランス。いかにもステレオタイプな描き方ではあっても、いちいちハマっちゃうところがなんとも(笑)。フランスの「いかにも」は本質的にどのみちさほど面白くはならないものだけど、ロシアの「いかにも」はやっぱり面白いよ(笑)。まあ何しろロシアですから(笑)。人間関係もなかなか濃ゆくて、フィリポフは、音楽家としての自分を完膚なきまでに破滅させた元KGB(今はうらぶれた共産党員)ガヴリーロフにマネージャーをやらせたりするのだ。このガヴリーロフがコンサート開始直後に思わずとったある行動が見もの。セリフ自体はたいしたことのないものだけど、彼がバリバリの共産党員であることを心に留めておくと、そのセリフの重みが違ってくる。
監督はクラシックの演奏経験はないと見た。才能があって志があればいい演奏ができるなんてのは、所詮、経験の無いものが見る甘い夢に過ぎない。でも、そういう夢を通してしか描けないものもある。『のだめカンタービレ』もそうだし、クリストファー・リーブの『スーパーマン』でスーパーマンが地球を逆回転させて時間を戻したり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で過去の親を助けに行ったりするのもそう。SFでやってもよくて音楽映画でやってはいけない道理は無い。甘っちょろい夢でけっこうじゃないですか。
公開は今日、いや昨日からか。シネスイッチ銀座や渋谷のル・シネマ等で。クラシックとか全然わかんなくても全然無問題です。ただ、フランス語とロシア語がハンパに分かる人はかなり覚悟して見に行ってください。正直、アタマ痛くなります。
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