津波とベルリオーズ
津波が来るよぅ~、怖いよぅ~、と言いつつ、自宅より海に近い墨田区にベルリオーズを聴きに行く。いや、まあ、津波といってもすみだトリフォニーホールに届くほどのものが来るとは心配性のワタクシでもさすがに思ってはおらず、そういうストレートな意味でびびっていたわけではないのですが、何しろ水害の町・土浦市で生まれ育って、母親に自宅の柱を指差されて「ここまで水が来た」とか言われながら子供時代を過ごした者にとって、やっぱり水害系の恐怖は原始的なレベルで根付いているのですよ。もうオリンピックとか東京マラソンとか、どうでもいいわけですよ(ちなみに私は女子フィギュアの結果に不満は無いです)。
で、何故ベルリオーズなのかというと、夫の友人がソニー・フィルに所属していて、いつもちゃんと案内をいただくからなわけです。ソニー・フィルはその名の通り、ソニーの企業内サークル。まあアマオケなんですが、ここもまたハンパないアマオケで、今回もほほほ満席でした。
プログラムは「舞踏へのお誘い」とハイドンの85番「王妃」、そしてメインの「幻想交響曲」。指揮は金聖響。
「舞踏…」は無難に済ませたものの、正直、ハイドンがかなりヤバく、一時はどうなることかと思いました。いつからこのオケはこんなに下手になっちゃったんだ……まさか……世界的経済危機→資金力低下→練習環境悪化→質的低下→廃部という恐怖のループが頭を駆け巡る……
が、「幻想」はとてもよかったです。そうか……労力の大半をこっちに使っちゃったのね。まあそりゃそうでしょう。ハイドンはほとんど練習してなかったんでしょう。特にパート練習はほぼ皆無と見た。
まあそれはいい。「幻想」は素晴らしかったです。標題音楽である点を過大に重視せず、純粋音楽的にまとめて成功した感じ。ストーリー性やグロテスク感には欠けるものの、今回は演出より音楽を取って正解でしょう。ビックリしたのは、二台のハープ(どちらもさすがにトラ)、を指揮台の両側に配置してあったこと(第二楽章終了後撤去)。ここだけ妙にエンターテイメント。オケは、ウィーン配置どころかウィーンフィル配置。最初はハイドンのためだけにやってるのかと思ったけど、このまま「幻想」もやりました。
根性入ってるなあと思ったのは、チューブラーベルズで済ませることも多い第五楽章の鐘がホンモノの鐘だっとこと。BPOやらCSOやらの録音ならともかく、アマオケでスコア指定通りが実現できるとは…… いったい何処から借りてきたのやら……
と思ったら、なんと、あれは自前だそうです。あの鐘はチューニングできるようなものではないので、はっきり言って「幻想」にしか使えないシロモノ(強いて使いまわしするなら「1812年序曲」に混ぜるという手もあるか)。それを自前で持ってるアマオケって……。ふっ、ソニー……さすがだぜ、ちくしょ~、お金持ちめ(笑)。
と、ただの金持ちサークルだったらそれで終わりだが、その鐘がちゃんと生きるだけのレベルの演奏をしてしまうところがまた小面憎いではないか。
うちに帰ってから確認したら、何故かゲルギエフ&VPO、レヴァイン&BPO、オーマンディ&フィラデルフィアのCDしか発掘できなかった。アバド(80年代のまだ良かった頃)とか、デュトワとか持ってるはずなんだけど……さ、探しときます さすがにどこもいい鐘を使っているが、も、もしかしたらVPOとソニー・フィルの鐘は同じメーカーのものかもしれない…… BPOは破格のいいやつを使っていて、かえってちょっと音楽から浮いている。これ、ステージ用じゃなくてどっかの教会の鐘とか録音したのかと思わんでもない(少なくともオケと別録音なのは確実かと)。
「1812年序曲」同様、やっぱり鐘って大事なのよね。単なる効果音じゃない。「1812…」なんて、大砲はバスドラで充分、そんなにこだわる意味はない、勝負を決めるのは鐘だと私は思っている。「幻想」も、いわゆるDies irae部分2分ほどの間しか使わないものだけど、それでもやっぱり、オーケストレーション巧者のベルリオーズがこだわった意味がちゃんとあるのだ。
ソニー・フィル、次は9月にブル4だそうです。そういう難しいプログラムを持ち出してきても全然不思議ではないオケなのであった。いいなあ……
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