中村芝のぶ@九月大歌舞伎
先日、突然九月大歌舞伎の昼の部を見に行くことになり、急遽、行ってまいりました。中に入ってから出るまでの総拘束時間が六時間弱。こっ……こんな長いのは初めてだ…… 席は三階の東側。上手は切れるものの、花道を墨から墨まで見渡せる面白い席でした。
演目は
1.竜馬がゆく(りょうまがゆく) 最後の一日
2.時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ) 饗応の場 本能寺馬盥の場 愛宕山連歌の場
3.お祭り(おまつり)
4.河内山(こうちやま) 松江邸広間より玄関先まで
演目的には「時今也桔梗旗揚」がメインかな。春永の光秀いびりがスゴイ もうね、どこの橋田寿賀子ドラマのお姑さんかと(笑)。
ワタシ的には「竜馬がゆく」が実はうれしかったです。あれは歌舞伎というよりは演劇なので、そういう意味ではちょっとイマイチといってしまえばイマイチなんですが、何と言っても今回は中村芝のぶさんが近江屋女中とめとして出てますんです。
舞台が近江屋というだけで、もう「泣き」はデフォルトといえばデフォルト。実際、隣席のお兄さんは「しゃも鍋」云々のあたりですでに爆泣き。染五郎の竜馬が日本の未来を熱く語るのを聞いていると、ネットでしたり顔の政治評論なんかやる「だけ」じゃイカンのだ!とか、けっこう熱く真面目に思ったりしてしまう。しかし、実はこの演目の白眉は、竜馬が熱く語るシーンでもなければ、暗殺のシーンでもないかもしれない、とちょっと思った。
女中とめが竜馬の部屋でお給仕をしている時、竜馬が、「いずれおなごも、誰でも好いた男と一緒になれて、どこでも好きなところにいけるようになる」と、仲間たちと話しあう時と変わりない態度で語ると、とめがびっくりして「おなごでも……ですか?」と聞き返すシーンなんじゃないかと思う。とめはうだつの上がらないながらも真面目な醤油作りの桃助に思いを寄せつつ、桃助が手引きしようとしている竜馬暗殺計画との間で板ばさみになる。でも結局何が出来るわけでもない。まさしく、時代の中の無力な女なのである。しかしこの演目の中では、暗殺計画も知っていて、竜馬の人柄も志もしっているのはおとめ一人。出番は少ないけど、重要かつ美味しい役を芝のぶさんがやっているわけですね。嬉しくないわけがない
芝のぶさんは、年は私より一つ下……ってことは、正直、もう四十過ぎのおっさんですよ。なのに、あの美しい容姿と、本物の乙女かと思うようなあの美声。美しいけどちょっとドジっ子でさえない、芯は強くて誠実だけど、悲劇を目前にしてマンガやテレビ時代劇のヒロインのように大胆に活躍できるわけではない「どこにでもいる女の子」を、あの決して長くはない出演時間の中で演じきっている。すばらしいわ……。まいりましたです。
実は『赤い星』の芸妓月の兎(つきのと)は、中村芝のぶさんを想像しながら書いたんですけど、まさにおとめは私が想像した月の兎そのものでしたですよ。そう、もし『赤い星』を歌舞伎化するんだったら、月の兎は芝のぶさん。実は舞台用の一部分抜粋版の脚本草案はあります(笑)。まあ、小説なんかを書くような人間は、常にこのくらいの妄想はしていることです(笑)。すんません
もっと芝のぶさんの情報をこまめに仕入れていろいろ見に行くべきかしら。同好の士求む! ていうかそれ以前に、幕見でもう一回見に行くべきかしら。
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