タコ8
って言っただけで「ああ、アレか」と思う人はそんなには多くないですが。
先月、日本ユーラシア協会の理事会から帰ってきた井上が何やらチケットをもらってきた。オーケストラ・ダヴァーイという、ロシアもの専門のアマオケのコンサートだそうで。というわけで、土曜日にその第三回の演奏会に行ってまいりました。
とにかく演目がスゴイ。前半がプロコフィエフの「チェロと管弦楽のための交響的協奏曲」、後半がショスタコーヴィチの交響曲第八番、要するにタコ8ですな。前者はけっこうなレア曲で、私も井上もCDさえ持ってない。しかもタコは8ですよ8! よりによってタコ8! あんな難しい曲を…… 私は開演前に、「これはよっぽど『ただやりたいからやっている』だけのむちゃくちゃ身の程知らずな集団か、ものすんごく上手いかのどちらかで、その中間は絶対無い」と井上に予言した。それなりに上手で、それなりに己れを知っているような人たちは、こんな選曲するわけがないからだ。
結論。後者でした……
正直、驚きました。失礼いたしました
前半のプロコは、チェロのソロが今いち音量がなくて聴き取りづらかったのが難か。あれはねー、ソリストを床と指揮台の中間くらいの高さの台に載せちゃったのが失敗だった思う。チェロは座って弾く楽器なので、協奏曲の場合は台に載せちゃうことは確かにあるんだけど、少なくとも今回のオケとのバランスとホールの音響を考えたら失敗だったと思う。やはりエンドピンは直接ステージの床に突き立ててしまわないと床を味方につけることができない。ソリストは丸山泰雄。プログラムに一升瓶を持った写真を載せたり、前半のアンコールにホーミーもどきな歌を歌いながら弾くナゾの曲を弾いたりする変わった人(残念ながら作曲者の名前が聞き取れず)。コンテンポラリーは好きだし、面白かったけど、ちょっと聴き手置いてけぼりの弾いたもん勝ちなアンコールではありました。繰り返しをやらなきゃええねん、あの曲は。
後半のタコ8は、正直、ロジェストヴェンスキーを呼んできて読響がショスタコやった時より上手かった。ちょっと見物、というくらいのつもりで聴きに行ったにも関わらず、思わぬいいショスタコが聴けてしまってお得感たっぷり。ただ、オケが上手いだけに、指揮者の解釈が気になったのも事実。理解を求めて切々と訴えてくるショスタコなんてイヤだ~! ショスタコは、押しつけがましいわりには6割か7割程度しか理解を求めてこない(ように見える)ツンデレなほうがいいな……。ああいうアプローチはブルックナーでやって欲しい。ショスタコでやるなー! 感情的なものが最も表現しにくい第二楽章が一番良かったりする罠。でも、フォルティシモはほんとに思いっきりやってくれたし、まさに「生で聴いてよかった」と思わせるサウンドを引き出してくれたのはよかったです。
まさかの上手さ。こんなに上手いアマオケは聴いたことない……と言いたいところだが……
君ら、アマチュア・オーケストラじゃないだろう?
日本のオケに所属していたら、プロコのレア曲やタコ8を演る機会なんて一生ないかもしれないのだ。でも演りたい。そういうプロ奏者が集まってやってるんじゃないのか。そもそも弦楽器の音程が全員ちゃんと合ってるのが怪しい。装備もハンパではない。こんなアマオケがあるわけないやん。これ以下のプロオケなんかいくらでもいるぞ。わざわざガイコクから呼んできたプロオケがこことは比べ物にならないくらいトホホなことも時々あるのだ(どことは言わないけどさー)。「団員募集中・オーディションなし」とはいうものの、真に受けて行ったらけっこう辛い思う。
ううむ。しかし、都内にこのようなロシア関係の怪しい団体があるとは知らなかった。来年の第四回演奏会は7月24日、すみだトリフォニーホールだそうです。曲目は未定。このオケだったらモソロフの「鉄工場」とか演っても驚かないぞ。個人的にはラフマニノフの「鐘」とかやって欲しいです。そしたら合唱やりたいっす。
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コメント
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「ああ、アレか」と思ったヒトその1です(^^;).
「理解を求めて切々と訴えてくるショスタコ」1回は聴いてみたいですの.それこそ情緒纏綿と,延々泣きが入るような演奏.・・・・・・ダメだ,想像することさえできない.それこそ鋼鉄のような演奏はいくらでもあるのですが.
投稿: G.C.W. | 2009年8月 4日 (火) 22時01分
いや、さすがにそこまでは行きませんでした。あのオケならそこまでは許さないだろ~。第一楽章のああいうところとか、第四楽章、第五楽章のああいうところとかが引っ張り気味で、ナニだっただけです。でもやっぱり「をいをい
」って思っちゃうのよね。
タコ8は、ロジェヴェンはすぐ諧謔表現に走って、どちらっぽい解釈もできますよ、みたいなことやるけど、ムラヴインスキーは100%公式見解を信頼してものすごくまじめにやってる感じの演奏しましたよね。どっちでもいいけど、ブルックナー的アプローチはしないでほしいことです。
でも、いっぺんイタオペ的泣きが入るようなタコを聴いてみたい(笑)。ネタとして(笑)。
投稿: ふみお | 2009年8月 4日 (火) 22時57分
こんにちは。
当該演奏会の出演者の一人です(会社員です)。
ご来場&素晴らしい感想&トラックバックありがとうございました。
そのオケは続く限り永久にロシアの作品しか演奏しませんので、
ご都合があえばぜひまたご来場ください。
投稿: kobaken3 | 2009年8月 7日 (金) 19時49分
来年も楽しみにしております~。当方も単行本でも短編でもかなり多くのロシアネタを展開しております。『赤い星』はタイトルからして一目瞭然なのでお分かりでしょうけれど(笑)。ショスタコネタも分かる人には分かるところにこっそり忍ばせてますし、SFマガジン4月号の「ひな菊」はショスタコの話です。またショスタコ演るんでしたら、是非、一番をお願いしま~す。
投稿: ふみお | 2009年8月 8日 (土) 16時30分