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2009年4月27日 (月)

セルゲイ・コロリョフの映画

渋谷のUPLINKで土日に「ウクライナ映画祭2009」なんていうのをやってまして、今日は井上にくっついて「カラリョフ」(ユーリ・カラ監督、2007)を見てきました。

「カラリョフ」というと一瞬誰のことだか分からないが、セルゲイ・コロリョフのこと。Королёвという綴り通りに読めば「コロリョフ」だが、ロシア語の場合、アクセントの位置によって「O」は「A」と発音されることがあるので、日本語ではコロリョフとして定着しているこの人の名も、ロシア語の発音に忠実にカタカナ化するのならカラリョフなのである。で、今回はその発音に忠実な読みでやってるわけですね。私もある短編で、地名を全部ロシア語の発音に忠実な表記でやったことありますが、はっきり言って後悔した……。なんというか、自分は「分かってる人」なんだけれども、みたいなスノッブっぽさが出ちゃって、特に益はないのよね。あれは短編集に入れる時には直したい……。でも「カラリョフ」は「カラリョフ」でやっちゃったのですね。やめときゃいーのに。というわけで、私も人名としてはここでは「コロリョフ」で統一します。

というか、そもそもセルゲイ・コロリョフって誰?という人がほとんどではないかと思う。そりゃそうでしょう。この人知らなくたって、教養がないということにはならなさそうだ。まあ言わば、「ロシアのロバート・ゴダード」みたいな人です……っていう言い方もあんまりですが。コロリョフというのはソ連のロケット開発者で、今、ソユーズ・ロケット、モルニヤ・ロケットと呼ばれているA型の設計者です(1906~1966)。この映画はコロリョフのロケットそのものについての話ではなくて、宇宙開発関係の書籍では数行で済まされちゃうシベリア流刑の件についての、コロリョフ自身がガガーリンやレオーノフに語った体験談だそうです。

もう、ロケット作ってるのは映画の最初の頃だけ。あとは内務人民委員(KGBの前身)に拷問されてシベリアの強制収容所に送られ、母親と妻がモスクワで嘆願に明け暮れて、ついに裁判のやり直しが叶う(で、ラストシーンにいきなりロケットが飛ぶ)話。シベリアに送られてからモスクワに召還されるまで4、5年あったはずだが、映画ではその時間の経過が今ひとつ実感できないのが難か。ただ、途中で内務人民委員の実権がエジョフからベリヤに移行してきている、という描写で、当時を知っているか歴史をちゃんと勉強している旧ソ連圏の人には分かるのかもしれないけど(私はうちに帰って調べるまで分からんかった……)。

このユーリ・カラという映画監督は、井上によると、デビュー作も強制収容所に流された人々を描いたものだったそうで、どうもそういう方面に関心のある社会派人らしい。ただ、映画としての出来はちょっと平板かなあ。

一番印象に残るのは、ロケットでも強制収容所でもなく、フシギなロシアのお役所かもしれない。冷淡で無関心なお役所仕事と、情が通じればかなり地位の高い人が初対面の嘆願者のために無償で動いてくれる浪花節の世界が同時発生するトワイライトゾーン。そのえらいひとが動いてくれる基準も、嘆願者の言い分が正しければいいというもんでなくて、なんと言うか、嘆願者の個人的魅力とか説得力とか、えらいひとの機嫌とか相性とか、何とも微妙で不可解なもので左右される。こっ……これは……外国人には決して描けない、ものすごくロシアっぽい描写だわ…… 私もSFマガジン4月号に書いた「ひな菊」でちょっとそれ系の描写をやったけど、さすがにレベルが違う。

ガガーリンを初めとした数名の友人にはかなり詳しく語っていたという話を最近どこかで読んで、それってどんな話だったのか、ものすごーーーーーーーーーーーーーーーーーーーく知りたかったので、ちょうどその直球ど真ん中の映画でした。知りたいと思ってから一ヶ月かそこらで知れてしまった。ラッキー。しかし、ワタシ的にはコロリョフという人はけっこう自分に都合のいいようにホラを拭きかねない印象があるので、拷問に耐えて三日三晩立ち尽くしたとかや、モスクワに帰還する際、真冬のシベリアを一人で100キロ以上歩き通したとか、このあたりはかなーり誇張してるというか、限りなくホラかもね、と思わんでもない。それでも濡れ衣で苦労したことに変わりはないし、それを生き延びてA型ロケットを開発したのも事実で、やっぱりセルゲイ・コロリョフという人は偉かったなあ、と思うことです。

ところで、この渋谷UPLINKでは五月末(六月初旬?)に、ソ連のプロパガンダ・アニメという珍しいショートフィルムの上映をやるんですが、今月の25日に発売されたSFマガジン6月号にそのレビューをワタクシが書いております。お暇がありましたら読んでやってください。というか、上映会、来てね。6月6日には『夜のポエティズム/赤塚若樹のアニメーション講座vol.34』というイベントで井上徹がロシアのアートアニメについて語ります。どちらも当日が近づいたらまた改めて予告しますんで、どちらもよろすく。

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