ソクーロフ最新作「チェチェンへ アレクサンドラの旅」
原タイトル「アレクサンドラ」。先週、ごく内輪での試写会がありまして、行ってまいりました。まだ字幕も万全でない状態(その前の週に児島宏子さんちに遊びに行った時、just翻訳作業中だ った)で、マスコミ試写は来月から、一般公開は2009年のお正月、という予定だそうです。
今手に入る一番いい画像がギリシャ語のポスターなんで、なんかちょっと妙な感じですけどすんません。
ソクーロフらしく、例によっていかにもな起承転結のないストーリー。対チェチェン戦のロシア軍基地に、下級将校の若者デニスを訪ねてその祖母アレクサンドラがやって来る。素人のばーちゃんがいきなり最前線の基地に滞在する許可を出すというのもスゴイ話だけど、こういうのは実際にも無いことではないらしいです。雨露もしのげるかどうかというような宿舎、潤いもへったくれもない生活(しかし、アメリカ映画で「いかにも」という感じで描かれる分りやすい荒んだ感じではない)を送る若者たち、古い武器を淡々と整備し、普通に出勤するように戦場に出て行く兵士たち……。孫デニスも、兵士たちも、このちょっとわがままなばーちゃんを持て余しつつも、何だかんだいって結構相手にする。
ここは基地だけど、チェチェン側は当然、、「生活の場」なわけで、やはり当然、闇市があって、ロシア軍兵士も普通に買い物に行っている。アレクサンドラはその市場に買い物に行き(前線に出て行く軍のゲートをくぐって歩いて行っちゃう!)、チェチェンの女たちと、普通に馴れ合う。アレクサンドラは三泊ほどで帰ってゆく。市場の女たちが軍用列車を見送りに来る……
でも、こういうところでいかにもな「女の平和」を語り合ったりしないところがさすがソクーロフ。しかもアレクサンドラは、映画全体の中でも「平和の象徴」みたいな扱われ方をされない。チェチェンの若者にとっての彼女は「圧倒的な支配者」の一員であり、ロシア軍の兵士たちにも特に感慨を与えるということもなく、孫デニスとの会話では、アレクサンドラについてのある衝撃的な(でもどこの家族にもあるだろうごくありふれた)実情が露わにされる。
製作の後援には、ロシアの政府機関であるロシア連邦文化映画局がついていて、撮影は実際のロシア軍基地@チェチェンで、装甲車などは実物、出演者の中には本物の兵士も多くいるそうです。でも、2月にソクーロフに会ったある人の話だと、ソクーロフは「撮影に関して、当局からの干渉があった」といってえらい落ち込んでいたらしい(「妨害」や「検閲」ではないそうなので念のため)。どう見ても戦意高揚映画ではないし、どう贔屓目に見たってロシア軍を擁護してチェチェンを批判する内容ではない。なのに基地でこういう映画を撮らせちゃうロシアもすげーなと思うし、やっぱり何だかんだ言って口を挟んできたのか、と戦慄を覚えもするわけです(♪ピンポーン、KGBです、じゃないけど(笑))。まあロシア政府もお役所も当然、一枚岩ではなくて、映画人の表現の自由と芸術を守ろうとする人もいれば、国是としてやっている戦争に疑問を呈するような作品を「ちょっとなあ」と思う人もいるわけですよね。でも、それでも、こういう映画が作られ、公開される今のロシアを喜びたいと思いますです。
アレクサンドラを演じるのは、かのガリーナ・ヴィシネフスカヤ。普通に地味で、あくまでもロシアのどこにでもいるいつでも堂々とオレ流なばーちゃんなんだけど、デニスに髪を梳いてもらう時だけ、華やかなオペラ歌手らしい表情を見せるその一瞬が印象的。
例によって、ちょっと見る人を選ぶソクーロフ映画ですが、テーマに少しでも関わりのある要素を何でもかんでも詰め込むのを本作では諦めた様子もあり、「太陽」とか「ファザー、サン」とかに比べればとっつきやすいのでは。一般公開は、まずは2009年正月にユーロスペースでロードショウからだそうです。とりあえず要チェック。
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