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2008年9月 4日 (木)

小説みたいって云うな!

韓国&北朝鮮の「美女スパイ事件」、最近は「スパイとしてはたいしたことなかった。別に美人でもないし、落とした男たちも下っ端ばっかり」という論調になってきたみたいですね。実はちょっとホッとしていたり。

何故なら、「次から次へと要人に取り入る凄腕美女スパイ」的な報道だと、か~な~ら~ず~「小説か映画みたい!」って言う人が出てくるから。

……………………。

あのね、本当にこんな小説書いたら、どこの出版社からも「安っぽい」「時代遅れ」と言われてリジェクトされますよ。

出版できたとしても、まず間違いなく作家として死亡フラグが立つ。

「現実」ってコワイな、とつくづく思う。フィクションでならむしろできないような陳腐なことも、しょぼい結末も、メリハリのない展開も、なんでもやっちゃうから。

今、世界のフィクション造りの人間たちが戦わなければならないのは、イデオロギーでもなければ商業主義でもなく、「現実の陳腐化」かもしれない。「テロリストが乗っ取った飛行機がニューヨークの摩天楼に突っ込んできました」とか、「元KGBが入手困難な放射性物質で暗殺されました(しかも登場人物はおっさんばっかり)」とか、書く勇気ないよね……

今回のスパイ事件も、ロマンスとしてよく出来てれば一定の需要はあるかなあ。でもあまりにもロマンス過ぎるとエスピオナージ好きの読者からは軽蔑され、国際政治がどうの諜報活動がどうのというところを硬派に書き込むとロマンス好きは寄ってこないか(前者系の人が『シュリ』をこき下ろしてたっけな~)。両立できるくらいなら最初から苦労はないわけで。

『赤い星』もね……「SFガジェットとノリがいい。でも『中身』は無い」と評する系の人と、「こういう精神性の高いテーマに安っぽいSFガジェットは不似合いだ(怒)」と評する系の人が出てきましてね……。前者系の人からは「頭が堅くて視野が狭い読者の言うことなんか気にしないほうがいい」と慰められ、後者系の人からは「どうせ読解力の無い人たちの目には『巨匠とマルガリータ』さえドタバタ喜劇に映るんだから気にするな」と慰められ……ているのか慰めの体を取ってさらに批判されているのか。いやでも正直、前者からは後々理解者が出る可能性は感じるけど、後者からは永遠に軽蔑されたままな予感。

などとフィクション書きが苦悩している間にも、自国の首相があんな捨て台詞を残して辞任したりするのであった。これも現実だからこそ面白いんだろうなあ。恐るべし「現実」。

ところでそのスパイ事件の話をしている時、実際に国家機密に接する仕事をしている人に「国家機密とはいっても、それを扱っている人たちにとってはそれが日常なんですよ。緊張を保つのは案外難しい」と言われてしまった。わああ……ちょっと待った!! マジですか?! そういうもんなんですか?! どうりでエーベルバッハ少佐の仕事が減らないはずだよ(笑)。

まあ、こういうニュースを見ても「現実」ってスゴイなーと思いますけどね。

スズメバチ逆襲し寺全焼=副住職、巣を焼こうと-新潟

3日午前9時半ごろ、新潟県小千谷市岩沢の寺「和光院」から出火、木造約130平方メートルを全焼した。県警小千谷署は、佐藤篤副住職(41)がスズメバチの巣を焼き払おうとし、火が燃え移ったのが原因とみて調べている。佐藤副住職は顔などをやけどしたが、命に別条はないという。
 調べによると、佐藤副住職は竹の棒の先に火を付け、寺の食堂の押し入れ内にあったスズメバチの巣を焼き払おうとした。しかし、スズメバチの逆襲に遭い、火が付いたままの棒をその場に投げ捨てて避難。火が寺に燃え移ったという。(2008/09/03-17:44)

副住職、包帯で顔をグルグル巻きにしてテレビでインタビュー受けてたらしい……。いやあ……ス、スゴイですね スゴイとしか言いようが無い。いろんな意味で(笑)。

でも「小説みたい」って云わないでね……

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コメント

始めまして。『赤い星』はネットで買いました。まだ読了していませんが、文学性を評価する側に共感を感じます。感想はまた改めまして。ブルガーコフを引き合いに出されて慰められることのどこが批判なのか分りません。よい評価なのではないでしょうか?

あー、読解力というのは、読者の想像力を問うということでもありますから、SF「だけ」を期待する読者にとっては、SF的な要素以外は邪魔、という変な現象も起こるわけで。これが困った問題なんですね。
ストルガツキイ兄弟の最大の問題作「滅びの都」ですら、重要な部分は読み飛ばして「退屈」だと言い、SF的なガジェットだけを評している書評がありました。何で作者自ら逮捕を恐れて封印せざるを得なかったのか、その本質的な部分が読めていないわけですね。(もちろんその書評には正面から反論してボコボコにしましたけど。。。)
筒井康隆御大が「朝のガスパール」において、そういうSF読者のことを「SF餓鬼」だと言ってこきおろしてましたね。
読めない人は、永久に読めないと思うので、諦めるしかないでしょう。「戦争と平和」の戦闘部分だけを評価するミリオタというからかい文句がロシアにもありますから

たく様、ご購入ありがとうございます~。

いや~、あまりにも読者さんに失礼な話なので批評の全体像は書かなかったのですが、要するにその人が言ったのは「ふざけた手法を取ったからその程度のレベルの低い読者にしか読まれない。ちゃんとした読解力を持つ読者を期待するなら、それに相応しい書き方があるはずだ」てなことだそうで……

つまり、私の方向性も読者さんも全否定ってことですよね……

だったら、今のところまずは一番表層の部分だけでも、私のポリシーである「フィクションにしか出来ないこと」を見てくれたという意味で、前者のカテゴリーの読者さんのほうがまだ真の理解に近いと思った次第です。

そう、「フィクションにしかできないこと」という信念があるんだったら、お色気スパイ事件とか911で動揺するなよって感じですよね。ま~現実に引きずられて執筆の方向性まで変えるほど影響されてはいませんが、愚痴りたくはなりますわな……

同志ノリピー、すぱしーば。旧ソ連では「真に読めてるのは検閲官だけだったり」みたいな笑い話もどっかにあったような。当事者にしてみたらたまったもんじゃないでしょうけどねえ。

ま、真に力量のある作家だったらどちらのタイプの読者も納得させられるはず、と言われちゃったらそれまでですけどね……

あ、ちなみに、特定の名前を想像されちゃうといけないので言及しておきますが、この批評を言ってきた人は大学のセンセイ系ではないです。

トルストイもブルガーコフもストルガツキイ兄弟もできなかったことなので、全ての読者を納得させられるというのは無理でしょ。とにかく前例が無い!
キューブリックの「フルメタルジャケット」に出てくるハートマン軍曹がヒーローだ!とかいう人もいるくらいですから、まあそのへんに限界があるんじゃないんですか。

ですねー。プーシキンも、出版社から原稿突っ返されたとか、読者が無理解だとか言って荒れてましたからねえ

まあ、ワタシ程度の作家に出来るのは、「分ってくれない人がいること=高尚」みたいに、いじけかつうぬぼれたりしないことぐらいですかねえ。

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