勝手に総括 今年のCD
さて。
もうそろそろ今年の総括でもしますかね。誰にも期待されてないと思うけど。
とはいえ、去年、今年とほとんど病人をやっていたので、「華々しい展開」などは皆無。今年の後半に至ってようやく浮上してきたけど、後半も「日常生活をフツウに送る」までの浮上にほとんど使っちゃったし、多少なりとも原稿が書けるようになってきたのはここ2ヶ月くらいだしなあ。
いや、そもそも引きこもり作家に華やかな生活などありようもないので、病気とは関係ないかもだ。今年もよーけ引きこもったわ(笑)。出版社も部門によっては芸能人が来るようなハデな忘年会やったりしてるけど、そういうのとか授賞式とか縁ないしなあ。今年一番ハデだったアクションって……もしかして緊急入院か。うわ~orz 出かけた範囲も、京都と大阪以上遠いところには行ってないよう。あとは都内で研究会いくつかと、ロシア文化フェスティバル関係のイベントくらいか。来年はペテルブルク行きたいなあ。っていうか必ず行けるようにします、ハイ。想定外に話が大きくなっちゃったこともありますし、それに見合うだけの成果はあげませんとね。でもこれは来年の話。
というわけで自分の生活については何も語るべきことがないので、2006年のベストCDでも語りますかね。もっともこれも、ジャンルに分けてベスト10を語るほど買ってないので、分類無差別でベスト5くらいかな
というか、下記のPSBと同率首位です。でも何故あえてこっちを先に挙げたのかというと、期待をはるかに超え、新境地とも言うべき域に達したCDだったから。
正直、前二作(Movement in still life と Emotional technology)は、いい意味でも悪い意味でもルーチン・ワーク化してて、期待通りにBTっぽさを満喫できるものではあるけど、なんちうか、もう一声!と思っちゃうところがあったのでした。デビュー作の ima(今) は欠点も長所もひっくるめてのいかにもデビュー作ならではの大傑作で、デビュー作を「越える」というのはミュージシャンにとっても作家にとっても限りなく不可能に近い難事業なんだけど、BT、ついにやりましたねー。imaとは傾向が大いに違うので(と言いつつ、どちらも「いかにもBT」)、どっちが上とは言いがたいけど、少なくともThis Binary Universeはimaと同等のBTにおける最高傑作だと思う。
ジャズ、クラシック、民俗音楽、架空の古代音楽、トランス、テクノetc.と、ありとあらゆる音楽的要素が混ぜ込まれているけど、全て借り物っぽくない。何もかもがBTの血となり肉となった上で、搾り取らなくても自然にあふれ出す音楽を惜しげもなく溢れるがままにさせているとでも言うべきか……。「才能」ってホントにすごいと思う。いや実はBTってCD一枚出すのにもすごく時間かけてて、あらゆる楽器を自分で演奏して自分でミックスダウンしてて、労力・努力の費やし方はハンパではないそうなんだけど、そういう努力の跡を感じさせないところもスゴイ。ただ豊穣な才能と霊感に任せて好きなようにやってるだけ、に見える……
BT史上初、ヴォーカルもラップもフィーチャーしていないというのも特徴。その分、ドビュッシーっぽい和声進行の生ピアノや、オーケストラ・パートを多用してちょっとクラシック寄り。バーンスタインのジャズ・シンフォニーやジョン・アダムズのHarmonielehreにも通じるようなものすごーーーーーーい開放感があって、ちょっと傾けただけで輝きを変える宝石のような多彩さと相まって、ホントに夢を見ているような一枚。忘れられがちかもしれないけど、こういう開放感って、アメリカ的コンテンポラリー音楽の真の美点だと思うことです。
映像つきのDVDもセットになってるんだけど、実はまだ見てなかったりする。いや、当分、てめえだけのイメージで楽しませていただきます……
1. Pet Shop Boys : Fundamental
もうね、待望といったらこんな待望のCD、ないですよ。だってPSBのアルバム全曲をトレヴァー・ホーンがプロデュースしてるんですぜ。2004年11月の「あの」コンサートで再会したPSBとトレヴァー先生が意気投合し、最初はアルバムの一部だけコラボの予定が、双方がどんどんハマっちゃってついには全曲コラボに至ったというシロモノ。PSBも好きだけど、それ以上にトレヴァー・ホーン原理主義者な私としては、トレヴァー先生がそこまでやる気になったアルバムなんて……悶死しないはずがないというものです。リリース前に「でも期待したほどじゃなかったらどうしよう……」という不安もいっさいなかったし、実際聴いてみたら、ちょーーーーーー満足! もうたまんないっす。
とにかく、トレヴァー・ホーン原理主義者が聴きたいと思っていたものを全部聴かせてくれちゃいます。アルバム全体が一体化した構成も気持ちいいし、その全体の流れを計算し尽くした上での各曲のアレンジも、全体としても素晴らしいし、独立した一曲一曲としても素晴らしい。いかにもPSBなソングライトな上に、いかにもいかにもな トレヴァー先生仕事。たまりません。特に The sodom and gomorrah show のPSBらしいチープなセンチメンタリズム炸裂なところや、 I'm with stupid(ブッシュにくっついて行っちゃったブレア政権を茶化す歌だそうな)、Numbあたりはは超ツボ。Numbは珍しくPSB自身の曲じゃないんだけど、これはシールにも歌ってもらいたいいい曲(もっとも、シールはこんな厭世的な曲歌わないと思うけど。でも頭の中でシール・ヴァージョンが想像できるよん)。レトロ・ディスコ調なIntegralの打ち込みトラックが入るところなんか「来たーーーー!」って感じ。
まあとにかく、PSBにとっては最高傑作、トレヴァー先生にとっても最高傑作群の一枚と言えましょう。買って損はないよ。っていうかお得感爆発な、今年を代表するCDです。
3.Shostakovich : Sym No.8 : Mravinsky & Leningrad PO
正直、ワタシ的にはクラシックは低迷な一年でした。試聴に出てるやつは聴きまくったし、どちらかというと試聴マジックに騙されやすいはずなのに、購買意欲沸かず。後半に入ってショスタコーヴィチ関係はだいぶCD出たし、もちろんそれはそれでええねんけど、よっしゃー!コレだあー!という域には至らず。そんな中で唯一、コレだあー!と興奮したのはさすがムラヴィンスキーのこの一枚。以前出ていた盤はピッチやノイズの点で問題ありだったそうで、それをデジタル的に修正して再リリースしたというデジタル・テクノロジー万歳なCD。ジャケもワレンチナ・クラギーナ(←すんません、どこにアクセントがあるのか分かりませんorz)の絵でカッコイイ。
ムラヴィンスキーのショスタコはどれもとれも集中力がハンパではない。本気度もハンパではない。評論家の間では「ハズレの映画音楽みたいじゃん」と駄作の呼び声の高い12番でさえ、カケラの茶化しも疑いもなく、がっつり200%のレーニン賛歌だったりする。もちろんこの8番なんかなおさらで、それはそれはもう本気である。コンドラシン盤ももちろん本気度高いけど、ムラヴィンスキーは「真に受けすぎ」とさえ言えるほど本気。そこいくと80年代前半に(つまりペレストロイカもへったくれもない頃のソ連で)録音されたロジェストヴェンスキー盤なんか、結果として上手いこと世渡りしちゃったよなあ、って感じ。ロジェヴェンはすぐ諧謔表現に走るので、8番なんかも随所に「いや、実はショスタコだって裏じゃ何考えてたか分かんないでしょ? 案外ここなんかは、真に受けちゃってる人を茶化してるかもよ?」てな感じになるところがあるんだけど(で、「ショスタコーヴィチの証言」を読んだ人はこれが正しいのでは、と思うんだよね)、ロジェヴェンとまったく同時期にこれを録音したムラヴィンスキーはそういうのいっさい無し。第三楽章のトランペット・ソロでさえ諧謔表現に走らない。
この暗~い暗~い曲のテーマについてショスタコ自身は「ごく単純化して言うと、『人生は美しい』ということである。あらゆる暗くて陰気なものが消え去り、美しいものが勝つ」と言っていて、その言葉対して現在の評価は「社会主義リアリズムのテーゼに沿って言わざるを得なかった言葉で、本心は表していないのでは」というのが主流だけど、正直、私はショスタコのこの言葉、あながち「当局向けの上っ面」ではないような気がするんだけどなあ。この曲を聴いても、暗い気持ちにはならないのよね。むしろ、自分がダメっぽい時にこれを聴いて力をもらうようなところがある。しかも、どんな細部も「ユーモラス」に走らない悲壮で切々としたムラヴィンスキー盤が一番、そういう力を持っているような気がする……のは私だけじゃないからこそ、この録音が究極の名盤と言われる所以でしょうなあ。
まあこの曲の初演者にして被献呈者であり、7種だか8種だかの録音があるムラヴィンスキーの演奏が一つの究極なのは当然といえば当然かもしれないけど、初演から40年、漫然とやっててこの境地に達するものでもないよね。40年間作曲者自身の言葉にも単純に従わず、世間のあちこちから聞こえてくる裏読み的な解釈にも惑わされず、ただ曲そのものに忠実だったからこそ至った到達点なのでは。これからの演奏者にはそういう体験はできないんだよね……。正直、ムラヴィンスキーにソ連の崩壊を見せないで済んでよかった、と思っちゃう。ごめんねジェーニャ、こんな世の中で……
すいません。後出しで4位として、ここにこんなの入れちゃいます。Pet Shop Boys : Concrete
5.The planets ・ Asteroids : Rattle & BPO
言わずと知れた今年のクラシック・ベストセラー。
もう8月にむっちゃ語っちゃったので、いいよね。
ああ冥王星~。冥王星~。
6. Orff : Carmina Burana : Muti & Philharmonia Oこれも再発なんだよなあ。でも内容的には4と入れ替えてもいい、ワタシ的には過去四半世紀間トップの座を守り続けているカルミナ・ブラーナの超定番ディスク。リマスタしてオリジナルのジャケを再現! 嬉し過ぎて、気がついたら二枚ダブリ買い……orz 誰か何かと物々交換して下さい……
カルミナ・ブラーナは演奏が難しいのだ。もちろん、技術的、解釈的にもっともっと難しい曲なんかいくらでもあるわけだけど(ショスタコの8番とか)、カルミナはどうしても「ここまでやってるはずなのに、何故か、コレダ!という演奏にならないもどかしさ」みたいなのがある。ライヴでハマればすごく生命感のあるいい演奏になるけど、ライヴじゃどうしても声楽のソロが失敗してたりする(そういう意味でラトルBPO盤もコレダ!と言い切れないんだよなあ)。そんな中でこのムーティ盤は、声楽の完成度とライヴ的燃焼を兼ね備えていて、評論的な目で見ることなくハマって聴ける一枚。録音、79年ですぜ。トレヴァー・ホーンが「ラジオスターの悲劇」を録音していた頃だ。古っ! いい加減これを凌駕する盤が現れて欲しいんだけどなあ。あと、このジャケを凌駕するヴィジュアルもいい加減現れて欲しいっす。
演奏者自身の編曲による「スター・ウォーズ組曲」なんていうのが入っているのだ。惜しいのは旧三部作、というより、エピ4、エピ5(帝国の逆襲)からしかセレクトしてないこと。オケ版の再現ではなく、オルガン的に的確な表現を求めて時間をかけたという編曲がすごくいいだけに、ここにDuel of Fates が入ってたら……と思うと惜しくてたまらん。もうね、フランス的シンフォニック・オルガンの魅力炸裂。使用オルガンも1998年にマイニンゲンの教会に新設された超新しいもので、録音もSACD対応。音的にはちょっと無菌室っぽい趣きもあるけど。ちなみにSWの選曲は「Main title」「Princess Leia's theme」「The imperial march」「Yoda's theme」「Throne room & End title」。レイアのテーマの編曲が出色。
結成25周年の記念ベスト盤。本当はベスト5に入れてもいいんだけど、やっぱり太鼓って録音で聴いてもねえ(泣)。うちの近所のしょぼいお祭りや、地元土浦のローカルなお祭りでも、鼓童に遠く及ばないシロートな太鼓が披露されるけど、それでもこのCDを私のミニマムなオーディオ・システムで聴くより熱狂したりするもん。やっぱり太鼓は生で、耳で聞くというより体感しないとダメすね。ああ鼓童のライヴ行きたい。つーか行けよ>自分。
ベスト5と言いつつ、ちょっと欲張って7枚まで語ってしまいました。でもまあ、今年はこのくらいですね。来年はクラシックに是非健闘してもらいたいもんです。
今年の更新はこれが最後かな。と言っても、近場にしか出かけないし、あさってにはもう来年だし、すぐに更新することでしょう。ああまだ掃除終わってないよorz では皆様、よいお年をお迎えください。
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